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執筆者の写真tokihiko mori

リカーレント学習で必要なもの

 人生100年時代。それだけ人生を楽しむ時間が伸びたわけだが、その生活を経済的に支えるために働く期間も長くなった。世の中の変化が激しいので一生の間に何度も転職し、職種も変わって今までの経験が生かせないこともある。そういうライフスタイルに呼応するように、いくつになっても学び続けるリカーレントという言葉をよく聞くようになった。

 BBT大学でも、30~50代の働き盛りの人たちがたくさん学んでいる。その受講生からときどき、新しいことが頭に残らないと相談を受けることがある。仕事をしながら新しいことを学ぶのだから大変。おまけに小中高校生のころとは違って記憶力は衰えている。そういう働きながら頑張っている人から、「何かいい方法はありませんか」と尋ねられると、舞台裏を見せるようで気が進まないのだが、私のノウハウを教えてきた。それがこのブログで紹介する「キオクの道具」である。

 記憶法といえば、だいたい連想や語呂合わせによる、いわゆる「○○記憶術」といわれるものか、脳科学的な視点から合理的な記憶法を教えるものと相場が決まっている。「キオクの道具」は、これらと違って、アプリを使って忘れないようにするというユニークなものだ。

 私がこの道具を思いついたのは大学生の時なので、もう50年ほども前のこと。きっかけは英語だった。大学で博士課程に進み、世界で活躍する研究者になりたいと思っていたとき、議論ができる英語力が必須だと気づいた。暗記科目は大の苦手。英語はその最たるものなのだ。

 そこで、その苦手を克服する方法はないものかとあれこれ考えて、思いついたのがこの道具だった。通学・通勤の途中、電車の待ち時間、人を待っている間、ジレ待ち、病院での待ち時間、テレビコマーシャルの合間…等など、それまでムダにしていたスキマ時間。それぞれは1~2分かもしれないが、そのスキマ時間は記憶をリフレッシュするにはとても便利なのだ。そうして英語のフレーズを復習すると、特別に勉強時間を取らなくても、欧米の学会で堂々と議論できるレベルの英語を身に着けることができた。

 それ以来、この道具の用途をいろいろな分野に拡げて使ってきた。振り返ってみると、20代のころは大学で学術研究を志していたのだが、その後企業に入り、3度の異業種(重工業→半導体→ファンド)への転職をし、その間に副業として大学や大学院で教え、本を書き、コンサルタントとして活動してきた。期せずしていろいろな仕事に携わったのだが、そのたびごとに新しいことを学ぶ必要があった。それに臆せずチャレンジできた理由の一つに、方法論として覚えることへの自信があったからだと思う。この道具のおかげで、万単位の英語のフレーズを覚えることができたのだから、それに比べれば、たいていの分野で必要とされる知識量は少ない。

 日本では、長年の知識偏重教育への反省から、知識を詰め込むより「考える力」を養う方が重要だといわれてきた。私もこの方針に大賛成だ。しかし、その結果として「覚えなくていい」という誤った考えを持つ人が増えているように思う。これは知力の低下を招く。考えてもみてほしい、知識に乏しい中高年というのはみじめなものだ。

 日本の学校教育の問題の本質は、ペーパーテストで正解を書くための知識獲得が目的になってきたところにある。学んだ知識を使って他人とディスカッションする、批判を意識しながら論文を執筆する、実際の問題を解決する、といったアウトプットを目的にしていない。

 このアウトプット志向の学習プログラムを反転学習などというが、これは思考力や創造力を養うのに非常に効果的である。しかし実施するためには、ディスカッションや論文執筆、問題解決に時間をとる必要があり、必然的に知識獲得の時間は少なくなる。しかし多くの人が、思考の基礎になる知識獲得のレベルで四苦八苦しているのが現状ではないだろうか。それを「道具」を使ってまずブレークスルーして、大人の学習を加速しよう、というのがこの道具の狙いなのである。



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